○上越地域消防事務組合放射性物質災害消防活動基準

平成12年10月25日

本部訓令第10号

目次

第1章 総則(第1条)

第2章 指揮の原則(第2条―第6条)

第3章 活動の原則(第7条―第9条)

第4章 安全管理(第10条―第12条)

第5章 消防活動(第13条―第27条)

第6章 雑則(第28条)

附則

第1章 総則

(趣旨)

第1条 この基準は、火災、漏洩等における放射性物質の被爆危険、汚染の発生又は被害の拡大における2次災害の未然防止と被害の軽減を図るため、消防活動について必要な事項を定めるものとする。

第2章 指揮の原則

(実態の把握)

第2条 現場最高指揮者(以下「指揮者」という。)は、放射性物質災害の実態を被爆危険、汚染の発生又は被害の拡大及び延焼危険の観点から把握するものとする。

(関係者の活用)

第3条 指揮者は、放射性物質の安全な場所への搬送、放射線の測定などの活動面及び適応する消火方法、適切な活動進入路の選定などについての助言等に関して放射線取扱主任者等の関係者を活用するものとする。

(行動の統制)

第4条 指揮者は、放射性物質に係る災害であると判明した場合は、その状況から放射線危険区域を設定し、内部進入、人命検策・救助、開口部の破壊、放水等の隊員の行動統制を行うものとする。

(隊員の把握)

第5条 指揮者は、出動隊の行動について、活動の実施場所及び活動内容について詳細にわたって把握するものとする。

(関係機関との連携)

第6条 指揮者は、放射性物質に係る災害において、関係機関との連携を密にするものとする。

第3章 活動の原則

(被爆及び汚染の防止)

第7条 指揮者は、隊員の体外被爆の防止について次のことに留意するものとする。

(1) 身体に受けた放射線量は、その強さ(線量率)と時間によるので、隊員の活動時間の短縮を図る。

(2) γ線・X線は、透過力が大きいため、透過阻止能力の大きいコンクリート等の遮蔽物を活用する。

(3) 放射線の強さは、距離の2乗に反比例するので、用具の活用による線源からの距離の確保に努める。

2 指揮者は、隊員の体外被爆の防止について次のことに留意するものとする。

(1) 放射線物質を含んだガス、塵を吸わないため、放射線危険区域内では必ず呼吸保護器を着装する。

(2) 感染した水、塵等を皮膚、着衣に付着しないよう放射線危険区域内では放射能防護服を着用する。

(3) 火災以外の災害においては、状況により毒・劇物防護服の着用も有効である。

(汚染の防止)

第8条 指揮者は、対象物内での汚染の発生及び対象物から外部への汚染の拡大を防止するため、放水が可能な場合でも、排水経路の確認並びに噴霧注水及びスポット注水に配意するとともに、開口部の開放及び破壊は十分な検討結果に基づき実施するものとする。

(危険区域への進入)

第9条 指揮者は、放射線危険区域に進入する場合は、必ず放射能防護服及び線量計を着装して脱出後に被爆量を確認し、記録しておく。

第4章 安全管理

(放射線防護)

第10条 指揮者は、消防活動に当たっては測定器等を活用し、徹底した放射線防護に配慮する必要があるため、確認した放射性物質の種類、線種に応じた測定器及び測定方法を活用するものとする。

(放射能防護服等の着用)

第11条 指揮者は、放射能防護服等は視野が限定され、かつ、構造も密着していないので、行動時には障害物に注意し、また、手袋の緊密性が低いので、微妙な作業を行う場合は物体を十分に把握していることを確認するものとする。

(放射線発生装置)

第12条 指揮者は、放射線発生装置に係る消防活動には、当該装置に高電圧部分があるので、元の電源が遮断されていることを確認するものとする。

第5章 消防活動

(出動時の措置)

第13条 指揮者は、放射性物質災害に当たり、次の資器材等を積載し、出動するものとする。

(1) 放射性物質に係る施設火災の場合は、放射能防護服、線量計のほか警防計画等必要な資料を積載すること。

(2) 放射性物質輸送車両火災の場合は、放射能防護服、線量計等を積載すること。

(3) 危険排除、救助作業等の災害においても、状況により放射能防護服、線量計等を積載する。

(部署位置の選定)

第14条 指揮者は、出動隊の部署位置の選定に当たっては、気象状況、地形を考慮して、風上、高台の部署位置を選定し、状況により迂回順路も考慮するものとする。

(現場到着時の措置)

第15条 指揮者は、現場到着時、火災発生場所及び放射性物質の汚染又は拡散危険の有無を確認し、その内容を通信指令室に報告するとともに、次の措置をとるものとする。

(1) 放射線取扱主任者等関係者の確保

(2) 要救助者の有無及び状況の確認

(3) 後着隊等の行動統制

(4) 放射能測定器による測定の実施

(5) 放射線発生装置の場合の関係者への電源遮断の指示

(6) 放射性同位元素(以下「RI」という。)施設の換気運転停止の指示

(7) 危険措置実施時の関係者への指示

(現場本部の設置)

第16条 現場本部は、気象状況、地形、街区構成及び消火水の流出方向等を考慮して、風上の高台に設置するものとする。

(情報収集)

第17条 指揮者は、放射線取扱主任者等の施設関係者及び警防資料から次の項目等について収集するものとする。

(1) 発災場所及び延焼状況

 RI施設であるか。

 管理区域内であるか。

 燃焼物及び延焼範囲

 延焼危険方向(RI施設への危険を含む。)

(2) 核種及び使用・貯蔵方法

 物質名(放射線の種類)

 密封・非密封の別

 数量、危険性及び性状

 収納容器

 使用場所及び使用状況

 貯蔵箇所

(3) 被爆(汚染)

 放射線の測定範囲及び結果

 危険区域の設定状況

 体内・体外被爆危険の有無

 注水による汚染危険

 放射性物質の防護措置(密閉、移動、電源遮断等)

(4) 要救助者の状況

 要救助者の有無

 場所(管理区域内・外)及び人員、負傷者の有無

 汚染の有無

(5) 検出可能人員及び測定器等

 検出可能人員の状況

 機種及び台数

 防護服の状況

(6) 危険物品の状況

 危険物品貯蔵及び取扱いの有無

 品名、数量

(7) 消防用設備等の状況

 自動火災報知設備の作動状況

 消火設備の種類及び作動状況

 消防用設備等が作動した場合の汚染拡大危険の有無

(8) 関係者の措置状況

 危険時の措置(初期消火、放射性物質の安全な場所への移動等)の状況

 防火区画・扉の閉鎖状況

 換気設備の停止状況

 関係機関への通報状況

(放射線の検出測定等)

第18条 放射線の検出及び測定は、要救助者の救出及び消火活動のための進入並びに汚染の拡大防止を目的として、次の箇所を重点に行うものとする。

(1) 救助隊及び消防隊の進入経路

(2) 出火行為者の避難経路

(3) RIを緊急搬送した場合の搬送経路及びその周辺

(4) 出入口、窓その他の開口部及びその付近

(5) 表面汚染のおそれのある箇所

(6) その他被爆又は汚染拡大のおそれのある箇所

(放射線の検出及び測定要領)

第19条 放射線の検出及び測定要領は、次のことに留意して行うものとする。

(1) 検出・測定は、原則として施設関係者を積極的に活用して行うこととし、消防機関としては、補助的に実施すること。

(2) 検出・測定は、汚染のおそれのない場所で測定器の予備操作を行って機能の確認をした後、呼吸保護器及び放射能防護服を着装し、身体を露出することなく行うこと。

(3) 検出・測定は、核種及び数量並びに使用状況を確認して行うこと。

(4) 検出は、複数の測定器を活用し、外周部から順次内部に向かって行うとともに、検出区域を分担して実施して検出漏れのないようにすること。

(5) 検出活動で屋内に進入する場合は、進入口を限定し、出入者のチェックを行い記録すること。

(6) 検出・測定結果は、レベルの高い数値を採用し、必ず検出位置及び係数率又は線量率を記載しておくこと。

(放射線危険区域の設定)

第20条 放射線危険区域は、次に掲げる区域に設定するものとする。

(1) 放射線が毎時1ミリシーベルト以上検出された区域

(2) 火災等発生時に放射性物質の飛散が予想され、又は認められる区域

(3) 煙、流水等で汚染が予想され、又は認められる区域

(4) 施設関係者の勧告する区域

2 放射線危険区域は、その範囲を後刻縮小することがあっても、拡大することのないようにするとともに、ロープ及び標識により明確に表示するものとする。

(放射線危険区域内での活動)

第21条 放射線危険区域内での消防活動は、第3章活動の原則に定めるほか、次によるものとし、活動可能時間は、別表第1によるものとする。

(1) 消防隊員の被爆線量当量限度は、次の数値とする。ただし、累積被爆線量が0.1シーベルトに達した者は、将来にわたり危険区域には絶対進入させないこと。

 消防活動 1回当たり 10ミリシーベルト以下

 繰り返し消防活動を行う場合 年間 50ミリシーベルト以下

 人命救助その他緊急措置を要する場合 1回 0.1シーベルト以下

(2) 被爆の管理には、警報線量計のほか、関係施設等に設置の線量測定器具の活用を図る。

(3) 消防活動は、被爆及び汚染の局限化を図るため、指揮者の指定した必要最小限度の人員とするとともに、危険区域内に持ち込む装備は必要最小限とする。

(4) 危険区域内へは、外傷のある者及び体調の悪い者は進入させない。

(5) 呼吸保護器具及び放射能防護服を着装し、外気と身体を遮断する。

(6) 消防活動の交替要員を確保し、努めて危険区域内での活動時間の短縮を図る。

(人命検索救助活動)

第22条 指揮者は、放射線危険区域内で人命検索救助活動を行う場合は、前条の規定によるほか、次によるものとし、放射線検出活動と併せて行うものとする。

(1) 危険区域に進入する前に要救助者の位置、関係施設の状況、予想被爆線量及び汚染の危険について、施設関係者及び警防資料等により確認する。

(2) 活動人員は、要救助者及び消防対象物の状況により2人以上でかつ必要最小限の人員を指定して行う。

(3) 危険区域から救助された者は、汚染されているものとして取り扱い、次により処置する。

 所定の場所で汚染の検査を行い、可能の限り汚染の除去をした後、救急活動の要否を判断する。

 原則として、施設関係者に救助された者が使用した物は、全て汚染検査を行わせ汚染物を処理させる。

(消火活動)

第23条 指揮者は、消火活動に当たって施設関係者と連携を図り、次により行うものとする。

(1) 消火の手段は努めて施設に設置してある消火設備を活用するとともに、移動式消火装置及び高発泡の活用についても配意し、注水による汚染拡大の危険がない場合は、積極的に水による消火を選定する。

(2) 管理区域内における注水は、努めて施設関係者と協議し、放射性物質に直接注水することを避け、放射性物質の飛散及び流出の防止を図る。

(3) 火災の状況から管理区域内に注水する必要がある場合には、棒状注水は避け、噴霧注水を原則とする。

(4) 消火水による汚染拡大を防止するため、排水系統を確認するとともに注水は最小限度にする。

(5) 不燃性ガス固定消火設備を活用して消火する場合は、特に酸素欠乏の2次災害の防止に努めるとともに、火災室の圧力増加に伴う汚染拡大防止に努める。

(6) 関係施設の火災で注水のための接近が隊員の被爆防止上不可能な場合は、隣接消防対象物への延焼防止を主眼に消火活動を行う。

(7) 汚染された煙が外部に噴出するおそれがある場合は、開口部の破壊又は開放は指揮者の指示による。

(8) 残火処理は、必ず施設関係者の立会いを求めて行うとともに、特に危険区域では鳶口等を活用して行い、直接手で触れない。

(9) RI関係施設周辺の火災の場合は、RI関係施設への延焼防止に配意して消火活動をする。

(救急活動)

第24条 救急隊は、放射線の被爆又は放射性物質により汚染された傷病者及びその疑いのある者(以下「放射線傷病者」という。)の救護に当たっては、原則として、隊員及び救急車等の2次汚染がないと認められた後に次により開始するものとする。

(1) 放射線傷病者を救護する場合は、2次汚染を防止するためゴム手袋を着用し、身体、衣服が放射線傷病者に直接触れないようにする。

(2) 放射線傷病者に創傷がある場合は、創面からの体内汚染をさせないよう配意する。

(3) 2次汚染を防止するため、ビニールシート、ゴム布等で全身を包み、頭髪は三角巾で被覆する。

(4) 放射線傷病者は、施設関係者及び関係機関と協議し、放射線障害適応医療機関に搬送する。

(5) 救護に際し使用したゴム手袋等は、放射線傷病者に触れた側を内側にたたみ、また、処置に用いた三角巾、ガーゼ等は一定容器に入れて関係施設及び医療機関に処理を依頼する。

(被爆・汚染検査)

第25条 指揮者は、放射線危険区域内において活動した消防隊員、施設関係者及び使用した消防装備、資器材の全てについての汚染検査は、次により行うものとする。

(1) 汚染検査には、原則として施設内の汚染検査室を活用するものとし、汚染検査室がない場合又はあっても使用できない場合は、施設関係者と協議し、危険区域境界の外側で汚染の拡大を防止できる場所に汚染検査所を設置する。

(2) 汚染検査は、原則として施設関係者に行わせ、状況により検査資器材を所有する隊から放射能検出員を指定し補助的に活用する。

(3) 検査結果に基づく処置は、核種、汚染形態及び汚染状況を考慮し、汚染の除去は原則として施設関係者に行わせるほか、次による。

 汚染物の除去は、多量の温水と石けんによる洗浄が効果的であるが、関係施設に設置してある除染剤を有効に活用する。

 汚染した消防装備・資器材は、1箇所に集中管理し、必要により監視人をおくとともに警戒ロープ、標識を掲出して、紛失又は移動による2次汚染の防止に努める。

 汚染物は、施設関係者に一括引き渡し、処理を依頼する。

 汚染した消防装備・資器材は、除染可能な場合を除き、容易に使用しない。

 消防隊員は、汚染検査が終了したのち、指示があるまで絶対に喫煙・飲食はしない。

 除染に必要な器具・薬剤は、別表第2に示す。

(被爆時の措置)

第26条 指揮者は、隊員が消防活動により被爆した場合は、次の措置をとるものとする。

(1) 被爆線量は、原則として放射線危険区域内に進入するときに装着した被爆線量測定器により把握する。

(2) 放射線危険区域内での被爆線量は、各種線源の強さにより異なるが、検出に基づく線量と活動時間とによっても推定できる。

(3) 被爆の認められた者については、別記様式に示す放射線被爆状況記録表を作成し、行動経路、行動時間及び行動内容を記録する。

(広報活動)

第27条 火災現場等における広報は、努めて関係機関と連携するとともに、広報内容を分担し、火災等の特殊性を考慮して次により行うものとする。

(1) RI施設周辺住民への広報は、混乱と動揺を避けるため正確かつ、迅速に行う。

(2) 広報内容は、災害の概要、消防活動の状況、住民への被爆・汚染の可能性及び避難の必要の有無を重点とする。

第6章 雑則

第28条 この基準に定めるもののほか、必要な事項は、他の災害活動に準ずるものとする。

この基準は、平成12年11月1日から施行する。

別表第1(第21条関係)

放射線危険区域内での活動可能時間

被爆線量当量限度

10ミリシーベルト(1レム)

活動可能時間

20分

30分

1時間

2時間

5時間

線量当量率

30mSv/h

20mSv/h

10mSv/h

5mSv/h

2mSv/h

被爆線量当量限度

0.1シーベルト(10レム)

活動可能時間

6分

12分

20分

30分

1時間

線量当量率

1Sv/h

0.5Sv/h

0.3Sv/h

0.2Sv/h

0.1Sv/h

別表第2(第25条関係)

手の除染に必要な器具及び薬剤

一般用

特殊洗剤

石けん

吸着剤(カオリン、酸化チタン、タルクなど)

非汚染部の保護(ラノリン、ワセリン)

柔らかいブラシ

ラノリン泥膏

酒石酸、クエン酸混液

ウエン酸泥膏

ベルツ水

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上越地域消防事務組合放射性物質災害消防活動基準

平成12年10月25日 本部訓令第10号

(平成12年11月1日施行)